2017/04/23

自転車保険と自治体の協定と利益相反

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Twで述べたこの件について。

自転車保険が、損害賠償の実効性を高めて被害者保護に繋がることはおそらく異論の余地がないように思います。

しかし、前々から、自治体が保険会社とタイアップしてこれを推進することには疑問を抱いていました。
一言で言えばこういう話なのですが、少し説明します。




保険会社が出す金はどこまでいっても顧客に跳ねる

上記の大阪府の記事を見てみましょう。
府民が加入すると、au損保から保険料収益の一部(保険料の1%程度)が大阪府へ寄付され、自転車安全啓発活動やヘルメット普及のために利用される予定だ。寄付金付きだが、保険料は従来の「サイクルパートナー」と変わらない。4月5日契約分から寄付の対象になる。
このように、一見すると、寄付はあくまで保険会社の自腹のように外形が作られています。しかし、保険会社の収益は顧客からの保険金による以上、それと無関係ということはあり得ません。

このように、寄付は、保険会社の顧客に転嫁する追加の「経費」として、顧客が負担することになります。

寄付を受ける自治体の行動のゆがみ

寄付を受けた自治体はどうでしょうか。

貰えるものは貰っておく?という発想なのであれば、それは、誰の為に働いているのか、という感覚を欠いていると言わざるを得ません。

どうしてでしょうか。

日本国憲法の下、自由がデフォルトルールの我が国において、自治体を含む行政の役割は、人々が自由に行動したらうまくいかない場面に影響力を及ぼし、問題に対処することにあります。

その原資は税金であり、その長は選挙によって選ばれます。

したがって、行政は、市民、すなわち選挙民と納税者に対して責任を負わなくてはいけません。

これは高校レベルの社会で習うことですよね。
ところが、ここに第三者のお金が入ると、意思決定が歪みます。

行政において、税金は自分らの努力とは無関係に当然入ってくるもの、という考えがあることは、否定しにくいように思います。

それに加えて、誰かのご機嫌取りをすれば、さらにお金が入ってくる。
となれば、なりふり構わず誰かのご機嫌取りを始めるというのは、それほど不自然な流れではありません。

税金を払い、政策を実行してもらう。そこには、厳しい損得勘定がなければなりません。行政が何か政策を実行する必要があるのであれば、それは、純粋な市民からの目線でもって、それでも税金の支出が必要であるからやる、と正当化されなくてはならない。

その政策が、市民ではない誰かのご機嫌取りをして入ってくるお金ではじめて可能になるものであれば、しないほうがいいのです。

自転車保険の場面における「ご機嫌取り」の意味

本件のような場面では、どうでしょうか。

自転車保険会社が、顧客から得られた保険料からわずかばかりのキャッシュバックを自治体に行うことで得られる利点は、次の通りです。
  • 自治体が、保険会社から金を貰えることを期待して、市民目線以外の考慮要素を持ち込んで政策決定を行う可能性があります。
    たとえば・・・
    • 保険を義務化することで、実質的に保険会社の補助を行う
    • 「協定」等の形で、多数の保険の中から特定の会社にお墨付きを与え、その保険会社に市民を誘導する
自治体が市民目線に立つのであれば、保険会社間の競争が促進され、市民に安い価格で保険が提供されるのが望ましいと考えるべきです。

しかし、上記のいずれも、すなわち、競争をゆがめる行為にほかなりません。

このように、
  1. そもそも原資は市民の金
  2. その金が競争をゆがめる形で用いられる
市民にとって、いいことなど一つもありません。

こんなことを自治体がやっていいのか。大変問題があるように思います。

冒頭に述べた通り、保険自体はとてもいい仕組みです。

でも、その保険の普及が、このような歪んだ形で進められる。どうお考えでしょうか。

おまけ・ヨーロッパの選択

以上が本論なのですが、実は、この問題、別に保険にかぎった問題ではありません。

ヨーロッパの金融規制においては、これは、"Inducement"の問題として、2018年から導入される新規制"MiFID II"においててんやわんやの大問題になっているのです。

上で説明した通り、自治体は、本来、納税者・選挙民のみを向いて仕事をすべきであり、お小遣いをくれる第三者の方を向いてはなりません。

これは、金融業界においても同じ。

他人のために投資を行い、原資を増やしていく役割を負う投資ファンドは、あくまで、最終投資家(銀行や大きな企業から、最終的には年金生活者まで)のためを思って行動すべき。

投資ファンドの投資活動において、商品の売買等の手助けをしてくれるブローカー等の利益になるような行動をしてはならない。

これは「利益相反の防止」と呼ばれており、金融に限らず「他人のために何かをする」職業、産業において、基本中の基本の考え方といわれています。

ところが、現実には、ブローカーが、投資ファンドにいろいろな利益を提供することで、投資ファンドの注文を惹きつけようという慣行が長らく存在していました。

例えば、
  • うちに注文してくれれば、コンピューターシステムを提供しますよ
  • うちに注文してくれれば、会社の分析を提供します
などなど。

もっとも、これらのオマケの費用は、投資ファンドが支払う手数料にいずれは跳ねることになります。そして、その手数料の原資は、投資家が出す。

投資ファンドは、自分の懐が痛まないからと、オマケをくれる(本当は割高かもしれない)ブローカーに誘導される。そして、それにより、オマケを渡さないブローカーが選択されず、競争が歪む。

こんな問題が、長らく指摘されていました。

そこで、MiFID IIにおいては、この問題を抜本的に解決すべく、投資ファンドは、ごく僅かな例外を除いて、このようなオマケを一切受け取れないように規制したのです。

規制の導入は2018年1月。まだ時間がありますが、業界は、これを巡って大騒ぎになっているのです。

もっとも、利益相反の防止、というのは、先ほど述べたとおり、別に金融に限った問題ではありません。他人からお金を預かってその人のために何かをする仕事であれば、全てに共通する課題です。

日本の自治体は、どうでしょうか。よくよく考える必要があるように感じています。

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