2016/06/02

nudge - 行動心理学を活用した目標達成

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提唱されて以来、公共政策の分野で大ブームとなり、その影響力は今も続いています。




ある目的を達成したい。このとき、刑罰のような強制的な方法ではなく、人の心理を利用することで、ターゲットが目標に自然に誘導されるようにする一連のテクニックとして提唱されたものです。

提唱者のThalerとSunsteinは、このテクニックのエッセンスを、次の6つにまとめました。
iNcentives
Understand mappings
Defaults
Give feedback
Expect error
Structure complex choices
Voilà: NUDGES

前提 人は合理的ではない!

この議論の大前提が、人間は合理的な存在(econ)ではないということ。
アイスクリームの味を選ぶのは簡単でも、結婚相手や家、投資対象を選ぶ場合には、人間は必ずしも合理的には行動していない。

この不合理さ - Boundede rationality - を前提とした上で、彼らは、上記6つの原則を提示しました。

iNcentives - 経済的なインセンティブを可視化しよう

もともと、インセンティブは、合理的な人間像を前提にしています。
でも、このインセンティブは、必ずしもうまく認識できるとは限りません。

インセンティブを付する上では、そのことが普通の人によく分かるように提示しなければならない。

提唱者が挙げている例は、自家用車とタクシーの比較。

合理的な人間であれば、自分の使う自動車の頻度と距離を確認し、自動車の購入費用とランニングコストを計算した上で、それをタクシーに置き換えた場合と比較するでしょう。

しかし、多くの人は、一度自動車を買ってしまえば、その購入費用は忘れてしまい、タクシーと自家用車を料金とガソリン代(とランニングコスト)で比較してしまう。

重要なのは、そういう計算において忘れがちな要素を常に思い出させること。

Understand mapping - 考慮要素を包括した選択肢を並べよう

私の中で、勝手に「定食」スタイル、と呼んでいます・・・

日本のレストランは、多くの場合、ランチで定食セットを用意していて、あまり考えなくても、昼食にふさわしいと思われる食事のセットをまとめて出してくれますよね。

ところが、ヨーロッパのレストランでは、そういうのがないことが多い。いちいち前菜、メイン、デザートと選ばせるスタイルが主流です。

予算、食べたい量、原材料etc...考える要素が多すぎますよね。これ、結構困るんです。

そこで、これらの様々な考慮要素を包括して、定食スタイルで提供する。焼肉定食、焼魚定食、ベジタリアンランチなどなど。これがUnderstand mappingの考え方です。

日本人は、ヨーロッパ人と比べて、食事を一品一品考えるほど暇ではないんですね。最先端を走っていると思います。

Defaults - 望ましい方にデフォルトのスイッチをセットしよう

デフォルトとは、「人間はものぐさである」という"事実"に対応するためのテクニック。

人は怠け者ですので、放っておくと、きちんとモノを考えずに、何もしない、今のままに流れを任せてしまいがち。

そこで、人に選択肢を提供するときには、何もしない場合に望ましいと思われる方向になるように、選択肢を設計する。

勿論、あえて別の選択肢を選びたければ、自由に選んでもらんでかまわない。

ちょっと問題になるのは、何が望ましいかは、人によって異なるし、事前に分からないこともあることです。ここは、少し議論がある点です。

現実の社会では、このテクニックは、むしろ商売人によってよく使われます。

しばらく前に問題になったダイレクトメール。
サービスに登録すると、そのアドレスに勝手にダイレクトメールが送られてくる方法がある時期までは主流だったのですが、規制によって、オプトイン方式 - メールを希望することを敢えて選択した人にのみ送る方式 - が原則として要求されるようになりました。

これは、政府によるDefaultの設定ということができるでしょう。

Give Feedback - フィードバックを与えよう

自転車乗りの皆さんが、これを一番実感されていると思います。

自転車を買って、毎朝一人で乗る。ただそれだけでは、長続きはしませんよね。

でも、友達と一緒にのってお互い速さを競ったり、あるいはStravaなどのSNSを使って「いいね」を受け取るだけで、やる気は全然違ってきます。

このように、人間は、自分の行動へのフィードバックがあると、すごいやる気を出します。

私は、SNS商法の本質はここにあると考えています。

FacebookもTwitterも、最近のSNSはほぼ全てこれをドライブすることに全ての知恵と能力を結集しているように思います。

Expect error - 人は間違えるものだ

これは、工学でいうフェイルセーフの考え方と被るものです。

人は間違いを犯すことを前提に、それをカバーできるように設計する。

例として挙げられているのは自動改札機。どの向きで切符をいれても、普通に動作しますよね。

利用者がみんな切符の向きに注意して行動することを期待するのは、無理かつ無駄が多いということです。

Structure complex choices - 難しい選択を構造化しよう

マッピングと近いところもありますが、少しちがいます。

マッピングは「定食」だとすれば、こっちは「フローチャート」というべきでしょうか。

例えば、借家を選ぶとき。
ここで、合理的に考えるとすれば、立地、家賃、設備などの考慮要素を全部横一列に並べて、それらを総合考慮する必要があります。

場合によっては、家賃が高くても他の要素で勝つこともあるし、立地がよくても設備がイマイチ、ということもあるでしょう。

しかし、多くの場面で、こんな総合考慮はしないことが多いのではないでしょうか。

「ただしイケメンに限る」ではないですが、「ただし○○駅に限る」とか、「ただし○○平米以上に限る」などの方法で、一定の足切りを行うことが多いと思います。

本当に合理的に考えるのであれば、○○平米よりすこし狭くても、他の要素を考慮すれば、OKな場合もあるはず。

しかし、考慮要素や選択肢が多すぎる場合には、総合考慮ではなく、このような足切りをしていって決めることが多いのではないかと思います。必ずしも常に最適とは限らないにせよ、足切りあるいはフローチャート式の選択方法を用意することで、スムーズな選択ができるようになる。

これが、Structuring complex choices。

交通政策への活用と問題

上記の定食の例ではないですが、実は、日本の社会では、意識してか、しまいか、これらのテクニックが既に多くの場面で活用されています。

私は、twitterで常日頃から「ルール/マナーが守られる前提で考えてもしょうがない」と述べるのは、この考えを意識しています。

人間は不完全であり、うっかりさんが一定数いることを前提に、制度は設計されるべき。

このことは、全ての人が利用する公共交通の政策において、より強く当てはまると思います。

他方で、このテクニックには、かなり大きな欠陥があります。その一つが、"nudge fatigue" - nudge疲れ - というべき現象。

これらのテクニックは、いずれも人の本能的な反応に働きかけるものです。しかし、同時に、人間はあらゆる刺激に対して慣れてしまう生き物でもあります。
慣れてしまうと、このテクニックは効用を失う。のみならず、本来望まれる目的が、かえって軽視されてしまうことにもなりかねません。

日本に目を向けると、横断歩道における自動車の一旦停止や、徐行といったルールは、広く無視されています。これは、この種の注意があまりに多すぎることに由来しているのかもしれません。

何事もメリハリが大切。

このテクニックは万能ではない。リスクに応じて、要所要所で投入することが大切ですね。

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