2016/05/22

The Table of Eleven - どうして道路交通法は守られないのか?

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いつも思っていますが、自転車走行環境に関する議論は、「ルールを守ろう」で思考停止することが多い。

しかし、今のルールが、本来の目的 - 安全で円滑な交通 - の確保のために最も効率的な方法かは、実はよくわからないところがあります。

ルールが守られない場合、「守る人の知識・モラルが低い」という議論に終始することも多いのですが、ルールが守られない原因には、ルールそのものの出来が絶対的に悪い場合や、ルールとそれを取り巻く環境やデザインとの食い合わせが悪かったりすることが多いように思います。

そのような場合には、闇雲にルールの遵守ばかりを説いても、なかなか守ってもらえないことが多い。





例えば今日目にした上記のRT。

この交差点は、道路交通法の上では、最も左側の車線を直進するのが正しい。しかし、そこは左折専用。左折車をやり過ごしつつ、直進可となる状況を待つのは現実的にはそれなりに難しいように思います。

道路の特定の箇所で違反が頻発するのである場合、ルールそのものを変更したり、道路のデザインを変更するほうが、ルールの啓発・遵守を叫ぶより楽に本来の目的を達成できる場合も多いように。

交通政策の業績評価指標は、ルールの遵守率ではありません。できる限り多くの人(自転車に限りません。オーバーオール)が安全かつ円滑に移動できること。

道路交通法1条にも、そう書いてありますね。

ルールや環境の調整を行わず、闇雲に現行のルールの遵守を求めても、それを守りにくい状況であれば、事態はなかなか好転しません。場合によっては、見せかけの遵守率は向上したように見えつつ、単に利用者が減っただけで、社会全体での利益の総量は低下してしまうことも。過剰抑止ですね。

さてさて

このような問題を考える上で参考になるのが、オランダの司法省が考案した"The Table of Eleven"というフレームワーク。これは、いかなる要素が規制の遵守に影響を与えるのかというのを、11に分類してまとめたものです。

現状ルールが守られていないとすれば、それを解析して、どの要素が問題なのかを特定する。

場合によってはルールを変えた方がいいし、場合によっては環境を操作したほうがいい。もちろん、ルール教育で何とかできる問題だってあるでしょう。

自発的に遵守されるかどうかを左右する要素


  • ルールに関する知識
    • ルールに慣れ親しんでいるか
    • ルールは明確か
ここは分かりやすいですね。ルールが広く知られていなければ、ルールが守られることも期待できません。ただし、繰り返し指摘する通り、教育だけではなく、ルール自体の明確さも重要なポイントです。いくら教えても、分かりにくいルールであれば遵守は期待できません。それならば、ルールをいじった方が早いかもしれません。
  • 利益とコスト
    • 金銭上の利益とコスト
    • それ以外の利益とコスト
この要素はインセンティブに関わります。
ルールを守ることで得られる利益とコストを比較して、利益の方が大きいと思えば人は守るように誘導されるものです。
しかし、例えば上記のRTの例などもそうだと思いますが、ルールを杓子定規に守ることで、かえって危険が高まるように思えることもある。そういう場合には、守ることは期待できませんよね。
この場合には、ルール/環境の方を操作することも検討されるべきでしょう。
  • ルールの受容
    • ルールの目標について受容されているか
    • ルールがもたらす効果について受容されているか
ルールについて知られていても、その目標や得られる効果について人々が納得していなければ、遵守は期待できません。
道路交通法に関して言えば、前者については文句はないと思います。
でも、後者については、必ずしもそうでないように思います。
  • ルールの適用を受ける側が規制官庁を尊重しているか
ルールは、自主的に守られている分には問題ありませんが、守られていない場合にはEnforcement(強制)が必要になります。
このEnforcementを行う主体=規制官庁=が尊重されていればいるほど、ルールは自主的に守られることになります。
道路交通法に関してはあまり問題はなさそうですね。
  • 社会的なプレッシャーは働いているか
    • 社会による圧力
    • 自主規制の仕組みはあるか
ルールが自発的に守られるためには、このような要素も必要です。
一見、日本では前者の要素は強いよいに思いますが、自転車の交通ルールに関する限りは、そうでもないように思います。

ルールをの強制を左右する要素

これまで述べてきたのは、ルールが自主的に守られるかどうかに関する要素。
ここからは、ルールが、Enforcement(強制)のプロセスを通じて遵守される局面に着目し、それがいかなる要素で左右されるかについて述べたものです。
  • 報告されるリスク
これは、規制官庁以外の者に違反が発見されて報告されるリスクです。これが高いと思えば、人はルールを守るようになります。
道路交通法ではどうでしょう・・・そういう場面もなくはないですが、現実的にはこれはあまり意識されていないように思います。
  • 監査が入るリスク
    • 書面調査
    • 立ち入り調査
ちょっと道路交通法との関係では関連性が薄いかもしれません。調査が入る可能性が高いと思えば、ルールは守られるようになります。
  • 違反を発見されるリスク
    • 書面調査により違反が発見されるリスク
    • 立ち入り調査により違反が発見されるリスク
調査の上で違反が発見される可能性。前のリスクとあわせて、全体として違反が摘発される可能性が高ければ高いほどルールは守られることになります。
  • (客観的なリスクとは別に)自らが属するグループがどの程度見張られているかという認識
ちょっとここは分かりにくいのですが、上記の一般的な監査リスクとは別に、規制の手法(Risk based approachなど)によっては、特定のグループにについてはリスクが低いとして放置されることがままあります。
自分らがそのグループに属していると思えば、ルールは守られにくくなります。
  • 制裁リスク
発見後に制裁を受ける可能性です。
自転車に関して言えば、赤切符しかありませんので、(略式)起訴される可能性です。
  • 制裁の強度
制裁がどの程度重いか。自転車に関して言えば刑罰の程度です。
自動車には反則金制度があるのでここがとても軽い。

みなさんもお気づきと思いますが、この強制の要素、自転車に関しては特に弱いです。自動車にいたっては、社会へのダメージが大きいのに、制裁の強度は自転車より低いという逆転現象が生じているところ。

ルールが守られない要素を解析し、環境を調整し、ルールを最適化する

以上のフレームワーク。後半は典型的なルールによる抑止を想定していますが、前半についてはルールが守られない理由を考える上で一定の参考になります。

※一つ言えるとすれば、Rationalityを前提にしている点で限界があるように思いますが

場合によっては、環境を調整することでルールの改変なく問題が解決することもあるでしょう。環境を変えたことでルールの最適化が必要な場合もあるかもしれません。

私たちに必要なことは、単にルールを守れ、で思考停止することではない。

現状を観察し、どこをいじれば安全で円滑な交通に資するのか。今の状況を不変のものとせず、柔軟に考えていくことではないかと思う次第です。

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