2016/02/03

メカニカルドーピング疑惑/ミネルヴァの梟が飛び立つのはいつ/ランス・アームストロングの件との比較

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メカニカルドーピングの件。

なお、この呼称には若干ミスリーディングなところがありますが、イメージしやすいのでこのまま使います。
#aminocyclo: メカニカルドーピング疑惑/本件は児童虐待案件に近い、かつ推定無罪を忘れてはならない



ドーピング問題と同様、本件は氷山の一角であろう

昨日の記事を書きながら、ぼんやりと、ランス・アームストロング(LA)の件について考えていました。スポーツ史上最大級のスキャンダルとなったLAの件ですが、以前から長いことトップレベル選手の間でドーピングが行われていることは公然と語られていました。

実際に多くの選手が摘発される中、彼は「沈黙の掟」とも言われるプロサイクリストの談合を巧みに利用、時には脅し、時には金で懐柔し、情報をインナーサークルに閉じ込めることで、長い間、追及を回避し続けてきました。

多くの人が同じ感覚を表明していますが、今回のもおそらく氷山の一角。一人の選手が摘発されただけで、「巨悪」は他にいるというのが、憶測とはいえ妥当なところであると感じています。

そんなことを考えながら、ぶらぶらと文献を漁っていたところ、ジャーナリズムではなく査読を経たものとして、こんなものを見つけました。

Dimeo, Paul. “Why Lance Armstrong? Historical Context and Key Turning Points in the ‘Cleaning Up’ of Professional Cycling.” The International Journal of the History of Sport 31, no. 8 (May 24, 2014): 951–68. doi:10.1080/09523367.2013.879858.

ドーピングという巨大な構造物は、定められたドーピング検査手続では打ち破れかった。蟻の一穴は、司法権の強制捜査

これは、なぜあのタイミングでLAが告白に追いやられたのかについて、ドーピングが半ば公然と行われてきた1990年代からの変遷を追い、それがいかに多くの積み重ねの上に実現したことかについて論じたもの。

単純に読み物としても面白かったのですが、今回のと同種のFraudについて、いろいろと示唆がありました。

筆者によれば、LAの摘発に到るターニングポイントは、かのフェスティナ事件。
Such details were beginning to impress upon the public understanding of doping. Some of the top Festina riders had eventually confessed, and the team’s director admitted that there was systematic doping within the team. (p955)

フェスティナ事件は、一般のファンにドーピング禍の広がりをまざまざと示した点でターニングポイントになったのですが、逆説的なのは、この事件は、ドーピングチェックが全く無意味であったことを示したからです。
While the Festina scandal was lauded as a potential turning point for anti-doping investigations, what it really showed was that doping controls ‘were useless or even
fraudulent’ (p953)
なぜか。それは、本件が、ドーピングチェックではなく、偶然国境警察がチームカーに詰まれた薬物の山を発見したことにより発覚したから。

本件をきっかけに、
  • WADA(世界アンチ・ドーピング機関)の設立
  • ドーピングに関するWADAコードにおける統一的な厳格責任
    (厳格責任 Strict Liability 故意・過失を問わず選手の責任を問う)
といった動きがある一方で、2010年代前後から、LAが所属していたUSポスタルチームメンバーへの捜査が入ります。

ただ、本件も、フェスティナ事件同様の問題がありました。すなわち、LAを追い詰めたのは、本質的には任意団体であるWADAサイド(含むアメリカのUSADA)のイニシアティブではなく、刑事司法の力、国家権力を背後に有したアメリカの連邦当局だったからです。
 George Hincapie had not come forward voluntarily, or had any substantial accusations made against him regarding doping, but did so because of a criminal investigation. (p958)
任意の取調べに応じなかったヒンカピーが、犯罪捜査権を背景にした取調にはついに屈服した。

この証言が、LAの摘発に大きく作用しました。

そもそも現時点では独立性のある団体による監視すら行われていない

これらがいずれも示しているのは、「巨悪」=強固なインナーサークルを打ち崩すには、残念ながら任意の方法では力不足なところがあるという点です。

しかも、現状は、任意団体によるドーピング検査の体制にも大きく劣ると言わざるを得ません。

UCIのような競技団体自体が、インナーサークルと濃厚な関係を保っており、自主的な調査ですらきちんとするか、抽象的にはリスクが残ります。

現在の体制はそうは見えませんし、かなり本気度は高いと思いますが、前任者はLAとの共謀を疑われました。調査の結果、直接の証拠は見つからずとされていますが、関連する問題点は指摘されています。

Cycling doping report: Lance Armstrong ban backed as former UCI presidents accused - Telegraph



メカニカルドーピングとは言いますが、端的に言ってしまえば、他の競技の機材レギュレーション違反と大差ありません。これをWADAのような競技団体とは独立した組織が扱うことには無理があります。

この点において、現状のメカニカルドーピングの監視体制は、ドーピングより構造的に脆弱であると言わざるを得ない。競技団体とグズグズになった結果のロシア陸上界をみての通りです。

根本的に対応するには外部の力が必要・・・なのか?

前回の記事で、警察の捜査は業界の常識を打ち破る大火になり得る」と述べましたが、むしろ、このような問題については、競技とは関係ない権限によってしか根本的な打開はされないのかもしれません。

しかし、一ファンとして、あくまでこの問題は競技団体の自治の内部で解決して欲しいとも思っています。外部の権力が介入して解決することは、UCI自身が不名誉と思っていることはもちろんだと思いますが、スポーツ全体としてのConfidenceを著しく下げることになるからです。

幸いというか、本件のような仕組みについては、技術的に対応することが可能な点が多くあろうかと思います。例によってコストの問題はありますが、スキャナーの導入等の話もありますし、SKYから提案があったパワーデータの開示も有用でしょう。

願わくば、本件について個人を叩いて終わるのではなく、可能であれば自治の範囲内で、抜本的なメスが入ってほしいと思います。

The owl of Minerva spreads its wings only with the falling of the dusk - ではないことを祈りつつ。

おまけ・・・を書いた後誤りに気づいて訂正(2016年2月3日GMT08:58)

なぜメカニカルドーピングという言葉がミスリーディングなのか

ドーピング→厳格責任→故意過失を問わないので非難可能性は微妙なケースもMechanical Fraud→Fraud→詐欺的な非倫理的行動という含意→非難可能性は高い
と言う意味で実はMechanical Fraudのほうが悪そうな印象が
テクニカルには
ある 

(おまけの追記の追記・・・と私がツイートしたのを転載したのですが、以上には大きな誤りがありました)

まずMechanical Fraudは誤りでTechnological Fraudなのですが、重大なのはここではなく。

元々Fraudという用語になっていますが、UCIのTechnological Fraudルールの構成要件は、ドーピングと同じ厳格責任ということ。そうすると、Fraudとはなっていますが、実際には倫理的非難が怪しい場合も、ドーピング同様含まれるということです。

ただ・・・文言だけ比較すると、
ドーピングのところには明確に故意過失の不存在は構成要件とは無関係と明示し、Strict Liabilityの意味もコメンタリーについているのに、Technological Fraudのところにはその記載が無いんですよね。

ドーピングと対比した経緯、あるいは競技ルールという観点からは、厳格責任であるという発想はむしろ自然と思います。

が、採用された文言の解釈(反対解釈)だけすると、ああ、Technological Fraudについては、Fraudという言葉を会わせ読んでも、主観的要件が当然必要なんじゃね?とするっと思ってしまったのでした。

しかし、下記記事によれば、ドーピング同様、全く主観的要件を問わないということ。
Explainer: How the UCI will prosecute technological fraud - VeloNews.com




Athletes have frequently attempted to pin the presence of doping products on a family member or friend (Denver Broncos quarterback Peyton Manning recently pushed away accusations of Human Growth Hormone use by noting that the medication was prescribed to his wife), but such arguments are useless against technological fraud due to the athlete’s strict liability. It doesn’t matter if the bike was raced. It doesn’t matter who owns it. It doesn’t matter if it was sold to somebody else or ridden accidentally. It doesn’t matter if the rider doesn’t know about the fraud. It’s still fraud.

Read more at http://velonews.competitor.com/2016/02/news/explainer-prosecuting-technological-fraud_394361#c259zDDER4iiB83o.99
強調部は私です。なるほど。

いずれにしても、こうなりますと、メカニカルドーピングという言葉は、むしろTechnological Fraudという言葉よりも妥当ないいように思えます。むしろFraudという言葉が強すぎる。

というわけで、この件に関する点は意図しない拡散を防ぐためTwを削除しつつ、私の誤りについて以上の通り記載して訂正させて頂きます。

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