2016/01/26

かわいい子には旅をさせよにはFiduciaryの本質が詰まってる/アジア選手権を通じて感じたストラテジーにおけるFiduciaryの必要性(1)

このエントリーをはてなブックマークに追加
 
photo credit: Fiduciary via photopin (license)

アジア選手権女子ロードレースが色々と物議を醸しているようです。

私自身は、タクティクスについてはよく分かりません。そもそも情報がありません。

むしろ、本件をタクティクス(で何とかできた/何とかすべき)の問題と考えるより、ストラテジーの問題と考えるべきかな、と素人ながらに眺めています。
問題は、本人の選択をどのように後押しするか。
そこにいかなる哲学があるか次第で、今後の発展が大きく左右されるように思えるのです。

本記事のタイトル「かわいい子には旅をさせよ」。一見してちょっと???と思われるかもしれませんが、最後はこれに帰着します。1回では済まなさそうですが、おつきあい下さい。

以下の一連の投稿。

#aminocyclo: Sir Dave Brailsfordという人 - 選手としての個人的経験に依拠しない専業マネージャ...
#aminocyclo: UK Based Trust/Confidence Model vs US Based Trade ...
#aminocyclo: レモン市場とロードレースのスポンサーシップ/パフォーマンスデータの開示は逆選択への有効な対応?
#aminocyclo: クローズアップ現代「ドーピング疑惑 不正はこうして広がった」/我が国に「不正をしない文化」はあるのか...

Fiduciaryとか逆選択とかについてウダウダと述べていますが、基本的にこれらは全て関連しています。

簡潔に言えば、

  • 情報の非対称がある場合、Race to the Bottom - 逆選択 - の働きにより、業界への才能と資金の供給が細り、チートが蔓延する。
  • この情報の非対称を打開するためには、適切な情報の提供と正確さの担保が必要になる。
  • このために最も有効なのは、Fiduciaryを負ったプロフェッショナルが"ゲートキーパー"として適切に情報を流通させ、情報を持たない側を助けることで非対称を是正し、才能/資金の両方の供給量を増やすこと。
という話。

情報を提供し、その正確さを担保する機関の例

逆選択の例で考えてみましょう。


例えばドーピング。この根本的な問題は、当事者の一方に決定的に情報がないこと。
そこで、その対策として、ドーピング検査を選手・チームとは無関係の第三者機関が行い、それを公表することで、情報の非対称を是正しようとします。

ポイントは、ドーピング検査機関が選手・チームとは無関係、独立していること。

利害関係がある場合、正しい検査と判定は期待できません。

大問題になっている陸上界の件では、国をバックに、選手育成団体とズルズルの関係であったことが構造的な問題としてありました。独立性がない体制に、正しい情報提供など不可能です。

結果として起こっていることは、急速なスポンサーシップの引き上げ。これは大きな打撃です。
アディダス、協賛社から撤退へ=国際陸連 (時事通信) - Yahoo!ニュース



Fiduciaryを負ったアドバイザーによる情報提供の強化

この情報提供機能は、情報の提供によって利益を受ける者(受益者)へFiduciaryを負った者が担うことで大きく強化されます。

例えば、EUのキャピタル・マーケット(証券投資市場)の規制法(MiFID II)では、Independent Adviserという助言者の分類が定められています。

これは、金融商品の投資についてアドバイスする業者の中でも、金融商品の「売り手」サイド、例えば銀行、証券会社といった業者からは独立し、純粋に投資家「買い手」のためだけを考えて助言する業者の分類。

EUの規制では、この業者に対し、きちんと投資家だけのことを考えて行動させるルールを作ることで、投資家が安心して行動できるようにし、投資を促そうとしています。

例えば、アドバイザーが、あなたにとって本当に有利な商品ではなく、「売り手」サイドからキックバック・リベートをもらえる商品だけを勧めてきている疑いがあったら、投資する気が失せますよね?

そうではなく、そのような利害関係がないプロが、本当にあなたのことを考えて最高の選択肢を示してくれたら、なるほど、やってみよう、という気になりますよね。

アドバイザーがこのように行動することを制度上確保することで、信頼を高めようとしています。

ここで大切なのがFiduciary。クライアントの味方をするフリをして、裏にクライアントの利益と対立する自分の利益を隠してはいけない。

このような「自分の利益」をシステム上排除することが、Fiduciaryの本質なのです。

これを、利益相反(りえきそうはん)の排除といいます。

これに対するよくある反論が、「いやいや、確かに私も利益を得ているが、それでもきちんとクライアントにも利益を与えているよ」というもの。

これは、商人のロジックとしては問題ありません。むしろ、商人の倫理は、可能な限り安く買って可能な限り高く売る、この鞘抜きをインセンティブとして、取引を促進することにあると思います。

しかし、これは助力者としてのプロフェッショナルには妥当しません。この点で、Fiduciaryを負うプロには、商人とは違う倫理が求められています。

最高の情報を安く買って、(正当な報酬は頂くが)可能な限りクライアントのために安く情報を提供する。

また、このFiduciaryは、形式的、外形的に確保されなければなりません。

「李下に冠を正さず」

利益相反の疑いを抱かせる体制自体が排除されなくてはなりません。したがって「本件についてズルはやってないよ」と言えるだけではダメなのです。

Reputation Capitalの蓄積による正しい情報提供の自己実現

このようなFiduciaryを負ったプロが適切に助言/助力をすることで、そのプロへの関係者からの信頼は高まっていきます。

そして、この信頼が高まってくると、これらプロには、敢えて外から規制をかけなくても、その信頼という評価=Reputation Capital を守るインセンティブが働きます。

彼ら/彼女らも、この信頼を守ることが、自らの利益になるという関係が生じる。

ここまでくればしめたものです。

が、このレベルに到るまでが大変。

またもキャピタル・マーケットの例で言えば、リーマン・ショックの頃、「格付機関」が問題になりました。

この格付機関は、本来、独立した立場で、投資家一般のために商品の質(クオリティ)の情報を提供することが想定されていました。

しかし、実際には、その収益のほとんどが「売り手」からの報酬で構成されており、結果として、売り手に望ましい「高評価」の情報を乱発。

表向きに構築されたReputation Capitalとは裏腹に、裏では利益相反が排除されていませんでした。

このような行動が、リーマン・ショックの原因の1つとなったと認識されています。

そこで、このような情報提供機関への信頼-Reputation Capitalを再構築するために、EUは続けざまに格付機関に関する規制を導入。ここでは、この機関の圧倒的な影響力に鑑み、外圧的な規制を用いる手法が採用されました。

このReputation Capitalの蓄積は、そうそう容易ではないのです。

スポーツ指導へのインプリケーション

さて。

グデグデと抽象的なことばかり述べましたが、以上のことは、スポーツ選手の育成にもあてはまると思います。

というのも、若いスポーツの才能は、そもそも自分の価値すらまともに理解できていない。そして、その買い手も選手の価値をすぐには見抜けない。

そこらじゅうに情報の非対称がゴロゴロしているからです。

このような局面において、才能ある選手をいかに見抜き、育てていくか。

そこには、上に述べたようなFiduciaryを持った助力者の存在が不可欠なのではないか。

次回は、今回のアジア選手権の件を通じて感じた、スポーツ指導へのインプリケーションについて考えてみたいと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿